2018年3月5日月曜日

内なる働き方改革

今の国会での働き方改革法案を巡る論戦は酷いものです。

労働生産性を高め、長時間労働を是正し、公正な待遇を確保することを目的とした一括法案ですが、国の将来を見据えたそもそも論は脇に置いて、経済界が望む裁量労働制の対象拡大と高年収の専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度の創設、労働組合が望む残業時間の上限規制導入を刺し違えるバーター取引で、お互いの損得勘定を言い合っているようにしか見えません。
お粗末な厚労省の残業時間データが原因で採用労働制対象拡大案は法案から削除されましたが、月100時間未満、年720時間の残業上限は違反企業に対する罰則付き規制として可決される見通しで、労働組合の完勝と与党内では揶揄されているようです。


ところで、本邦総雇用者数は約5,510万人、その内正規雇用の従業員は約3,450万人、非正規の従業員は2,060万人です。
また、2万5千ある組合の組合員数は約990万人、内パートタイムの組合員数は110万人強、組合組織率はわずか17%です。
即ち、労働組合の勝利とは無関係な4,520万人、83%の非組合員就労者の多くが働く中小零細企業労使双方の意見が組み上げられないまま働き方改革法案論議がなされているわけです。

今月から企業による2019年新卒採用情報の公開が解禁となり、6月からは昨年より2か月前倒しされた面接が開始されます。
この中で中小・零細企業の人材確保は益々難しくなっており、人手不足がより深刻化するという経営環境の中での罰則規定付き残業上限規制の導入です。


LPガスリテール業界については入社、転勤、卒業、入学等に伴う転居が集中する今月から来月にかけて最繁忙期を迎えます。
液石法等の関連法規のコンプライアンス遵守、経営上の要請としての売掛代金決済など、全て顧客宅訪問による業務が一時に集中しますが、将来的に残業上限規制のために業務が一定期間内にこなしきれないという事態が懸念されます。
また平時は液石法が要求する30分駆けつけ体制を24時間365日維持するための体制がとられています。
今冬のような豪雪や風水害、あるいは震災といった自然災害時の保安、安定供給を果たすという強い義務感を持つこの業界の側から見ると、いざというときに働きたくとも働けず、顧客の要請に応じられない状況を生み出す罰則付き規制の導入です。

LPガスリテール業界としては社員の生産性向上、働き甲斐を実感するに足る処遇を整えるどころか、人材・人手不足の悪循環から脱出できずに法令遵守すらままならない事態となることが危惧されます。
人でなくてはできないアナログ領域と自動化できるデジタル領域を徹底的に仕分け、自動化できるところは自動化する、同業他社と同一業務を共同でアウトソースするといったような、業務プロセスの徹底的な再構築のための先行投資と一体化した、この業界としての内なる働き方改革がいよいよ必要になってきたと思います。