2018年5月14日月曜日

2050年エネルギーシナリオの論点―②

経済産業大臣の諮問機関であるエネルギー情勢懇談会は『2050年のエネルギー戦略に関するシナリオ』最終提言を4月10日に提出しました。

『提言の副題は“エネルギー転換へのイニシアティブ”、その設計の基本は“野心的だが複線型のしなやかなシナリオ”、こうしたシナリオと科学的レビューメカニズムで構成する。実行の基本は“総力戦”。脱炭素化へ向けた新たなエネルギーシステムの確立に向けた政策強化、国際的なエネルギー転換アライアンスの形成、エネルギー産業・インフラの再編強化、資金循環メカニズムの4つで構成される(提言からの抜粋)』とされています。

2050年のエネルギー戦略シナリオについて、
①福島原発事故を原点に、
②可能性と不確実性の情勢変化の中で我が国が主導性を発揮し、
③エネルギーの自立と世界的な脱炭素化の課題を両立させる、
という3点を踏まえ今から政策・産業・金融が立ち向かうべき大きな方向性を纏めて頂いた委員の皆様のご尽力に対し心から敬意を表したいと思います。


省エネ、脱炭素化技術革新とその経済性を踏まえた実用化のスピード、分散型エネルギーシステム社会に向けた発想とインフラの転換の実現性の高低等次第で、具体的なシナリオは大きく異なったものになることは明らかですが、2030年を対象としたエネルギー基本計画見直し作業と併せ読むことで、パリ協定向けのエネルギー政策の具体的目標が理解できます。

2030年度の電源構成は
原子力20-22%、再生エネ22-24%、ゼロエミッション電源合計42-46%と現時点での17%から25-30%近く増加させる。

そのために年間5億kWh以上の電気小売り事業者に対して供給電力の44%をゼロエミッションにするよう義務つけ、日本卸電力取引所に非化石価値取引市場を立ち上げ『非化石証書』を売り出すことを5月初頭に経産省は発表しました。


この2030年に向けて供給電力の44%をゼロエミッションにするという目標は原発30基の再稼働が前提されているとのことです。

東京電力2基、関西電力4基、九州電力1基の合計7基は設置変更許可を取得、関西電力3基、九州電力3基、四国電力1基の合計7基は安全性の確保を大前提に再稼働、さらに現在新規制基準への適合性審査中の12基を全て合わせて26基は少なくとも稼働させることが計画されているのです。

2050年に向けたエネルギー情勢懇談会がその議論の原典に据えた福島原発事故、その廃炉と完全除染の方向性も定まらないなかでの30基再稼働による44%ゼロエミッション化義務付けを新しいエネルギー基本計画の背骨とせざるをえない現実を、私たちは深刻に捉えるべきでしょう。


将来への責任を睨み子供の数だけ親の投票権を増やす『ドメイン投票方式』は、本来の民主主義とは矛盾があるとはいえ、一考の余地ありかな、と思ったりする今日この頃です。

2018年4月3日火曜日

2050年エネルギーシナリオの論点

新年度に入りました。
エネルギー需要開発協同組合と致しましても新たな気持ちで家庭用エネルギーリテール業界のご発展のために微力ながら尽くして参りたいと思います。
改めまして、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 
さて、2002年に制定された「エネルギー政策基本法」では3年ごとに我が国のエネルギー基本計画を策定することになっており、現在のものが2014年に2030年までを対象に策定されてから3年が経ち、計画の見直しが総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で行われております。

これと並行的に、パリ協定の2050年時点で温室効果ガスを80%削減するという我が国の目標達成の困難さを踏まえ、経済産業大臣主催の「エネルギー情勢懇談会」が昨年8月に設置され、2050年のエネルギーシナリオの議論が開始されました。先月、3月30日に発表された同懇談会の論点整理に触れてみたいと思います。

論点は4つあり、論点1では、技術革新が脱炭素化の可能性を増大させることを認めつつも、技術・国家・産業間の競争激化や新興国の台頭による地政学的リスクの増大等不確実性が高まることを踏まえた国家戦略が必須になろう、としています。

論点2では、エネルギー基本計画の2030年シナリオと違い、可能性と不確実性に着目して多様性を加味した、しなやかな複線シナリオとするべきと。

論点3では、電力システムのゼロエミ化、熱システムの電化・水素化、輸送システムの電動化、分散型・次世代省エネ化のエコシステム形成、海外脱炭素化貢献といった野心的取り組みが必要であろうと。

そして論点4では、2050年シナリオ実現に向けて安全の革新、エネルギー安全保障、技術革新・競争力強化による経済性向上を同時達成すべく総力戦対応が不可欠であろうと結んでいます。


私は、同懇談会の枝廣委員(東京都市大学環境学部教授)から提出された参考資料に興味を惹かれました。

福島原発事故を踏まえ2050年には原発依存度ゼロ、他国がどうであれ日本が現実的な原発のたたみ方を考えるべし、とあります。

その理由として、経済性の悪さと日本固有の大地震発生リスクを指摘、原発依存度を15~20%と置けば40年廃炉を前提として新増設が必要な原発の数は、2030年までに2~9基、2050年までに20~27基、2100年までに40~54基と指摘し、その必要性を問いかけて(不要性を訴えて)います。


エネルギー情勢懇談会の論点整理は2050年までに日本で起こり得る多様な選択肢に応じた複線シナリオに基いて野心的ビジョンを定めるよう提言するとのことですが、そこでは枝廣委員の指摘する巨大地震発生リスクは特筆・強調されていません。

一方で内閣府の中央防災会議では2012年時点で30年以内に発生する大規模地震の確率として首都直下地震70%、東海地震88%、東南海地震70%、南海地震60%としており、またこれらが連動して起きる可能性を指摘しています。

2050年に向けてこれらの確率はもっと高くなっていく、という大前提に立った提案を懇談会には期待したいところですが、そうではなくて、パリ協定の2050年温暖化効果ガス80%削減目標は大変厳しく、その達成のためには一定の原発が必要不可欠で、そのための安全審査・対策をしっかりと講じるべし、という提案になるとすれば、そもそも順番が逆のように思うのは私だけでしょうか?

今春のエネルギー情勢懇談会の最終提言を待ちたいと思います。

2018年3月5日月曜日

内なる働き方改革

今の国会での働き方改革法案を巡る論戦は酷いものです。

労働生産性を高め、長時間労働を是正し、公正な待遇を確保することを目的とした一括法案ですが、国の将来を見据えたそもそも論は脇に置いて、経済界が望む裁量労働制の対象拡大と高年収の専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度の創設、労働組合が望む残業時間の上限規制導入を刺し違えるバーター取引で、お互いの損得勘定を言い合っているようにしか見えません。
お粗末な厚労省の残業時間データが原因で採用労働制対象拡大案は法案から削除されましたが、月100時間未満、年720時間の残業上限は違反企業に対する罰則付き規制として可決される見通しで、労働組合の完勝と与党内では揶揄されているようです。


ところで、本邦総雇用者数は約5,510万人、その内正規雇用の従業員は約3,450万人、非正規の従業員は2,060万人です。
また、2万5千ある組合の組合員数は約990万人、内パートタイムの組合員数は110万人強、組合組織率はわずか17%です。
即ち、労働組合の勝利とは無関係な4,520万人、83%の非組合員就労者の多くが働く中小零細企業労使双方の意見が組み上げられないまま働き方改革法案論議がなされているわけです。

今月から企業による2019年新卒採用情報の公開が解禁となり、6月からは昨年より2か月前倒しされた面接が開始されます。
この中で中小・零細企業の人材確保は益々難しくなっており、人手不足がより深刻化するという経営環境の中での罰則規定付き残業上限規制の導入です。


LPガスリテール業界については入社、転勤、卒業、入学等に伴う転居が集中する今月から来月にかけて最繁忙期を迎えます。
液石法等の関連法規のコンプライアンス遵守、経営上の要請としての売掛代金決済など、全て顧客宅訪問による業務が一時に集中しますが、将来的に残業上限規制のために業務が一定期間内にこなしきれないという事態が懸念されます。
また平時は液石法が要求する30分駆けつけ体制を24時間365日維持するための体制がとられています。
今冬のような豪雪や風水害、あるいは震災といった自然災害時の保安、安定供給を果たすという強い義務感を持つこの業界の側から見ると、いざというときに働きたくとも働けず、顧客の要請に応じられない状況を生み出す罰則付き規制の導入です。

LPガスリテール業界としては社員の生産性向上、働き甲斐を実感するに足る処遇を整えるどころか、人材・人手不足の悪循環から脱出できずに法令遵守すらままならない事態となることが危惧されます。
人でなくてはできないアナログ領域と自動化できるデジタル領域を徹底的に仕分け、自動化できるところは自動化する、同業他社と同一業務を共同でアウトソースするといったような、業務プロセスの徹底的な再構築のための先行投資と一体化した、この業界としての内なる働き方改革がいよいよ必要になってきたと思います。

2018年2月5日月曜日

運び手不足

博多に、税込1,500円で新鮮なお刺身、てんぷら、茶わん蒸し、煮物、お椀、辛子明太子が楽しめるサービスランチが名物の老舗生簀料理屋さんがあります。
このお店の40年以上続いたランチが2月25日をもって営業終了となるそうです。
入口で『人材確保が難しくなり昼食を作り続けることができなくなりました』という立て看板を見つけて大変驚きました。
九州最大級の生簀を囲む二百の客席は活気に満たされ昼時は連日何回転もしています。
客数は中国、韓国などの外国人旅行者も多く長蛇の列をなすほど増えているのに対し、従業員の高齢化、後継若手従業員不足で切り盛りする人手が確保できないための営業終了ということです。

同様な話としてトラックドライバー2020年問題というのがあります。
東京オリンピック・パラリンピックに向けて建設関連物資輸送ニーズが急増、ドライバー需要総数が90万人を上回るのに対し10万人以上不足するという見通しがあるとのこと。
ここでも需要の増加、既存ドライバーの高齢化、後継若手ドライバー不足という構図があります。
若手が集まらない理由は過酷な労働環境、長時間労働、低賃金。
宅配事業者に見られるように運賃の値上げ・サービス残業の解消、ベースアップで賃金は改善のしようがありますが、働き方改革とほど遠い印象を払拭することは容易ではないと思われます。


さて、家庭用エネルギーリテール業界では電気、都市ガスは運び手を必要としません。
しかし、灯油は北海道などではバルク供給、LPガスはシリンダー供給と運び手が必要な業態で、需要規模は縮小傾向にあるものの運び手の高齢化と若手配送員の確保難は深刻な経営問題です。
灯油やLPガスのルート配送の場合、ひと月の内の配送タイミングと配送エリアに継続反復性があることから、ベテラン配送員は季節、月日、曜日、時刻、天候等に応じて最適配送ルートを自らの経験則に照らして選ぶノウハウを持っています。
このノウハウを継承すべき若手配送員不足は配送効率を悪化させ、業績の悪化に繋がると懸念される事業者の方は少なくないようです。

電気に続いてガスのスマートメーターも世に出つつあります。
リアルタイムの使用量をもとにIoT、AIを活用してベテラン配送員並みの効率配送ルートを割り出すシステムを開発、研修を用意して保安業務員資格取得をサポートし、委託契約で配送・点検業務スタッフを確保するという動きが出てきています。
さらには検針員の他事業領域での活用、保安を担う社員不足対応やFintech時代の新たな決済も視野に入れた総合的な業務プロセスの再構築をきっかけに、機能単位の横断型の業界再編が異業種も巻き込んで進むとすれば、第四次産業革命時代に相応しい潮流となると思いますが、いかがでしょうか?

2018年1月9日火曜日

家庭用エネルギー完全自由化時代の競合の様相

皆様、新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

平成31年4月30日の天皇陛下の譲位が閣議決定され、今年の秋ごろには新しい元号が発表される運びで、まさに新しい時代の幕開けといった感があります。
一方で家庭用のエネルギーリテール業界も一昨年には電気の小売が、昨年は都市ガスの小売が全面自由化され、新しい時代に入りました。
昨年末の本稿では国産灯油の減産分を輸入灯油、電気、都市ガス、そしてLPガスが取り合うという家庭用エネルギー間競争の可能性について述べましたが、そもそも完全自由化時代の競合の有様はどのように変わっていくのかについて鳥瞰してみたいと思います。


文化人類学領域で有名な「ぼやけたジャンル(Blurred Genres)」という、古典的学問領域を超えた学際的視点を重視する手法は高く評価され、20世紀後半以降の新しい科学様式となりました。
これを家庭用エネルギー業界になぞらえてみると、これまでは石油業界、電力業界、都市ガス業界、LPガス業界等、ある事業者が所属する業界とそれ以外の業界、乃至、自らが扱うエネルギーとそれ以外という視点で競合を捉え、対抗策を講じるという様式でした。

しかし自由化政策の目論見は既存のエネルギー業界・種区分をBlurred Genresさせ、同時に異業種からの参入も促し、業界領域を超えた視点による分析力と新たな経営様式の確立によって低廉で安定的なエネルギー供給を可能ならしめるところにあります。

企業文化を異にして互いに競合する家庭用エネルギーの事業主体は次のとおりです。
① 一般電気
② 新電力
③ 都市ガス
④ 石油
⑤ LPガス
⑥ 異業種
⑦ 一般電気+一般電気連合
⑧ 一般電気+新電力連合
⑨ 一般電気+都市ガス連合
⑩ 一般電気+石油連合
⑪ 一般電気+LPガス連合
⑫ 一般電気+異業種連合
⑬ 新電力+新電力連合
⑭ 新電力+都市ガス連合
⑮ 新電力+石油連合
⑯ 新電力+LPガス連合
⑰ 新電力+異業種連合
⑱ 都市ガス+都市ガス連合
⑲ 都市ガス+石油連合
⑳ 都市ガス+LPガス連合
㉑ 都市ガス+異業種連合
㉒ 石油+石油連合
㉓ 石油+LPガス連合
㉔ 石油+異業種連合
㉕ LPガス+LPガス連合
㉖ LPガス+異業種連合
㉗ 異業種+異業種連合
プラスα

二者タイアップだけでも27種類の事業主体がこれまでのバックグラウンドに拘わらず、電気、都市ガス、石油、LPガスの全てに加え、エネルギー以外の家庭用商材、駆付や見守等の安心・安全サービス、さらには保証、保険、医療分野まで広がりのあるラインアップとパッケージディールを用意し、2事業主体間だけでも27C2=351通りの様相で、第四次産業革命時代に備える投資も視野に入れたジャンルなき競合を繰り広げることになるわけです。